2009年11月29日日曜日

サンタクロースと想像力

うちの上の娘は7歳で、まだかろうじてサンタクロースを信じているようなようす。下の子供はまだ1歳半なので、サンタクロースという設定自体に理解が及んでいない(と思う)。

そのうちいつか、サンタクロースという実体は存在しなくて、大人の設定の産物だ、という認識に至るのだろうけれど、この設定は悪いものではないと思う。

木枯らしが吹き、木から葉が落ち、日が短くなり、寒さが増していくこの時期に、実在しないものに思いを馳せ「想像」を働かせて、そこはかとなく暖かみのある夢を想う。周囲が物寂しくなっていくこの時期だからこそ、事物に依存しない暖かみを設定する。環境と気候に対して、心ある人間の生活を律していこうとする試みは、悪くない。

概して言えば「宗教」も同じ仕組みを持っているのだろう。実在しないものによって、実在する日々の生活を律していこうとする試みとして。思いが高じて、想像によって生み出されたアイコンの違いを比べたり、違うアイコンを排他したりして、争いになったりするのもまた、人間の業なのだろうか。

サンタクロースの仕組みが素敵なのは、寒い季節を我慢して太陽の運行が折り返し点になった日に、それまで想像の産物だったサンタのかけらが事物となって、想像してきた子供の手元に届けられるところ。

大人にも、サンタクロースが必要ではないか。
想像によって日々を律すること、とか、実在しないことを想像して楽しむ時間、とか、想像の小さなかけらが宝物として手元に届けられる不思議、とか。

2009年11月19日木曜日

農業と建築






















かつて郊外は、都心で働く人たちが寝に帰るベッドタウンの開発エリアとして、都市の拡張:スプロールの受け皿になってきた。また産業面をマクロで見ると、第一次産業と呼ばれる農業から工業、第三次産業の商業へとシフトしてきたのだが、ミクロな場所でみると必ずしもそのプロセスを逐一たどるわけではない。


スプロールの最前線では、農地が宅地化され、コンビニやガソリンスタンド、ファミリー向けレストランといった、車アクセスに最適化した機能が立地することになる。第一次産業から第三次産業へ、地域機能が一気にジャンプする。市街化調整区域でも例外ではない。


食を担う農業、ものづくりの工業、人へのサービスを担う商業、これら経済活動を伴う産業。人々のねぐらとなる「住」は、これらのいずれとも接続しうる機能・場所・箱である。


集約化・大規模化が求められている農業、その貴重な農地を宅地に転用して「住」として利用するのであれば、プライベートに閉じた住宅ではなく、人と人がつながりを感じることのできる機能があるべきだ。


「住」に人が集まる機能を組み込むと、住居がコミュニティの小さな拠点になる。ここで言うコミュニティとは、地域から少しだけ遊離した、趣味や好みを軸とした人のネットワークのことである。


人が集まる場所:セミパブリックエリアを設けた基壇、その上にプライベートエリアが乗り上げている構成。屋外デッキ・盛り土と植栽にも連続する床の階段化、街路の視線を遮りつつ水田と空に開放されたプライベートエリア、平面中心部の構造体力要素を埋め込んだ不定形なユーティリティエリア、ワンシェイプの外形と素材。建築内外を統合して考えること。


緩慢に進むスプロールの最前線に、「住」に統合された小さなコミュニティサイトが散在的に存在する。

【積層の景色】は、その小さな拠点のひとつになるのではないか。


竣工後2年を経て。


photo: ben matsuno

2009年6月13日土曜日

写真と生物を横断する

本日(2009年6月13日)に、fooで行われた、トークイベント、small talkの記録。

キーワードのみ、アップしておきます。



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大竹昭子+福岡伸一 small talk vol.08

090613sat


keywords


テーマ:

写真:外部の世界を写し取ること、外部の世界があってはじめて成立すること

生物:外部(人間の意識の外部としての生物)の世界を読み解くこと

これらの分野を横断して見ること




◯生物研究の世界

・分けないと記述できない

・分けても、生物の本質は理解できない

ということが、ヒトゲノム計画でDNAを分析して、わかった。


・細胞の見え方:人間・猿・昆虫の間で、細胞だけを拡大してみても区別できない。


・一度分けた上で、再統一していくプロセスを必要とする。

・「分けて見る」ためには、時間を止めなくてはならない。顕微鏡。



◯写真は、時間を止めてフィルムに固定する行為

・そこに前後への想像、撮影する前と後への予感・想像を促す効果がある。

・前後に想像の余地があること、が、写真の危うさでもあり(証拠写真など)、写真の魅力でもある。

・微分:時間を止めたい願望。時間を止めて記述する方法。

・積分:時間を統合したい願望。時間を積算して記述する方法。



◯生と死

・現代では、脳死が人の死として定義されている。:便宜的な線引きとして。

・身体の60兆個の細胞は、呼吸が止まっても、心臓が止まっても、瞳孔が開いても、数時間から数十時間は生き続ける。

・細胞が動的平衡的活動を止める状態までには、長い時間のグラデーションの状態がある。

・「脳死」が人の死であるとするならば、理論的対称性として、「脳始」が人の誕生として定義されるはず。脳波が発生するのは、受精後約27週(6ヶ月~7ヶ月)


◯輪廻転生

・科学的に捉えれば、身体を構成している分子が、燃やされて灰になり、二酸化炭素や二酸化窒素になって、再び植物や動物に取り込まれる、という意味で、輪廻している。

・文学的に捉えると、「人は死ぬと残された人の心の中へ行く」(中野秀雄)



◯蝶の美しさ

・蝶の美しさについて、蝶自身は、人と同じように見ることができない。

・蝶の視覚(色認識・空間認識)は、人間のそれとは異なる。

・人が美しいと認識しているだけ。「蝶の美しさ」は、人の認識の中にある。



◯擬態について

・葉っぱに擬態する昆虫は、葉っぱの汚れや(白点病などの)病気まで擬態する。

・生物学の論理では、「なぜ=Why」には答えられない。「いかにして=How」には答えられる。

・ダーウィニズムでは、無数の突然変異の結果、たまたま、うまく擬態した種だけが淘汰をくぐり抜けて選別されていく。

・しかし、昆虫のすべてが擬態形を採用しているわけではなく、むしろ、擬態を採用していない昆虫の方が圧倒的に多い。ダーウィニズムでは説明できない領域がある。

・ダーウィニズムでは、競争・選択・淘汰が標榜されるが、多くの種では、むしろ、競争を避ける棲み分けを旨としているように思える。その結果、圧倒的に多様な世界が展開されている。

・仮説だが、擬態する昆虫は、葉が葉として生成するための構築原理(植物の原理)を、昆虫がたまたま獲得した、のではないか?



◯写真の見え方

・有名人、無名、のクレジットを外してみると、プロの写真家でも、区別がつかないことが多い。

・作家としての個人の営みを経時的に通視すれば、そこに連続性を見いだすことはできるが。



◯突然変異とひらめきについて

・「キリンの首はなぜ長い」(ラマルク)必要とされるもの、欲することが、進化を促す、という考え方。

・ダーウィニズム:変わること自体に目的はない。役に立つ変化・変異は滅多に起こらない。



◯誤視

・映像、視覚、意味

・人は、ランダムなパターンの中に、意味のある像を、勝手に見いだす傾向がある。

・それは、長い進化の過程で獲得した、危険に対する認識傾向によるものである。

・明快な図像を含めて、人は、ほとんどのモノを「空目=勝手に意味性を見いだす図像」として見ているのかもしれない。


・ランゲルハンス島:膵臓内部でインシュリンを生成する細胞の集まり。この顕微鏡写真と、南洋の島は、同じ視覚的・図像的パターンを持っている。

・スケーラブルに相似形の図像・図柄が「見える」こと自体に意味はないが、メカニズムはあるのかもしれない。

・心霊写真:人間の意識が、意味・像をつくりだしている、好例。


・科学者にとって、セレンディピティ・直感による着想は、99.99%誤りである。

・なぜなら、そのほとんどが「空目=意識によるねつ造」だからである。

・政治文化、アートなどの領域では、どうなのだろうか?

2009年6月11日木曜日

ひらめきの構造

一昨年から慶応大学で「建築論」という講義を担当しています。
建築というジャンルが本来的に持つ「横断性」を主軸に、さまざまな角度から建築の断面・輪郭・辺縁を巡る、旅のような講義です。
全12回の講義のうちのひとつに「ひらめきの構造」というテーマの回があります。

その骨子を下記に。


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○ひらめきの構造

1.知の蓄積

・情報収集:与件・法規的制約・技術的可能性と制約・クライアントの意図など、:外的要因

・広範な視野で、

・すでにあること

・まだなされていないこと を知る。(事例・歴史・技術・素材・構造・……

・関連する体験をする:空間体験、いいものを見る:美術

・下地作り:検証プロセスにも生かせる創造の下地

・なぜ若い天才が現れるのか、クリエイターは若いものが多いのか

意識・経験2倍の法則


2.情報整理

・データ(知識のフラグメント)の情報(価値)化を行う

・階層化、関連づけ 演繹法:論理的積み上げ

・強弱(ポイントの発見)など 帰納法:観察・分析



3.フロー状態

・制約・常識にとらわれない脳の状態

・脳の変性状態(altered states)

<自分のこだわりから離れる、自分を客観視する、自分の殻を取り去る

そのための環境作り・もしくは自分がそこに行くこと

・「組織された混沌=オクシモロニックな環境」江崎玲於奈

・逍遙学派(アリストテレスが創設した古代ギリシャの哲学者グループ):歩き慣れた道を歩きながら発想する

歩くこと:歩き慣れた道(環境に対する無意識化が働く)+予測不可能なイベントとの出会い、景色(環境)のゆるやかな変化が意識下に働きかける


4.ジャンプ・跳躍・飛躍(狭義のひらめき)

・常識にとらわれない大胆な仮説設定

・論理的横断、異分野の接合、何らかの欠如(何かをなくすこと)分野横断的発想(Trans-disciplinary Approach)

・「『ああそうか』とひらめいた時には、脳の中のさまざまな部位の神経細胞が、0.1秒ほどの短い時間、いっせいに活動することを示唆する実験がある。」このとき、脳内で横断的接続が行われている

・セレンディピティを捕まえろ!!<問題意識が偶然のひらめきを捕まえる<現状への違和感


5.定着させる

・ひらめいただけでは創造に結びつかない

有用性にフォーカス・収れんしなければならない。

・なにが、これまでと違うのか、違いと意義の検証

養老孟司(解剖学者)「感覚とは何か。世界の違いをとらえるものだ。」<評価・検証プロセス

・収集、蓄積された知識による検証:共感>同調>統合

・対外的な与件に合致するか、法規・予算(制約の検証)

・クライアントに受け入れられるか(対人的検証)

・性能を発揮することができるか(技術的検証)

・物理的に作ることができるのか(工法的検証)


○ポイント

・問題意識が、創造性の駆動力となる。

・違和感ー共感、という相反する感性が創造には欠かせない。




◯仮説

・創造性とは、生命の動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)におけるバグ=ミスである。

・ミス=本来(平衡状態)では異なる属性にあるものをつないでしまう動き

・「○○と天才は紙一重」

・「秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない」(福岡伸一「生物と無生物のあいだ」)


・平衡状態>ミス・バグ>逸脱・離脱 >共感・協調 >統合・回収>平衡状態

>排除 >消滅

・一瞬のひらめきを捕まえるのは、準備された心・精神、すなわち問題意識:違和感である。

・捕まえたひらめきを有用性に結びつけるのは、深い共感感覚である。


・ミス、バグは、ある限られた人(天才・感性のある人)だけの特殊な能力だと思われてきた。しかし

・意図的にミスを起こしたり、ミスの振るまいを整流したり、バグの結果現れるひらめきを捕まえ有用化・定着する、動的環境を用意することはできるのではないか。

・そのような環境は、外因的に用意されるのではなく、意識することで環境を自ら引き寄せることができるのではないか。


2009年1月13日火曜日

もののあはれ_02

「もののあはれ」について書いた2007年10月21日の書き込みの補足・続きを。


体・脳という限定された物理的容器の中に、宇宙発祥以来延々と受け継がれてきた営み・反応・蓄積・知識・経験、圧倒的な量の情報から抽出された普遍項がどっとなだれ込む。 

個人が担うひとつの脳は、一回的な一人の人生一生分だけでなく、他者が他生物が鉱物や原子がくぐり抜けてきたありとあらゆるやりとりを「想起」することができる。

しかし、同時に、限定された脳細胞の数量・脳の容積が一時に処理できない量の意味ある情報を、想起してしまうことがある。これまで蓄積されてきた記憶ひとつひとつに照らし合わせている暇がないほど急速に膨大な量の普遍項と接したとき、インプットされながら処理しきれない情報が限定された脳細胞のネットワークからオーバーフローする。 

この状態こそ、一回性・個別性を宿命とする脳の構造と、繰り返し性・普遍性を想起する脳の志向性が交差した状態であり、科学と文学を統合する芸術=「建築」が立ち現れる沃野なのである。

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