2009年6月11日木曜日

ひらめきの構造

一昨年から慶応大学で「建築論」という講義を担当しています。
建築というジャンルが本来的に持つ「横断性」を主軸に、さまざまな角度から建築の断面・輪郭・辺縁を巡る、旅のような講義です。
全12回の講義のうちのひとつに「ひらめきの構造」というテーマの回があります。

その骨子を下記に。


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○ひらめきの構造

1.知の蓄積

・情報収集:与件・法規的制約・技術的可能性と制約・クライアントの意図など、:外的要因

・広範な視野で、

・すでにあること

・まだなされていないこと を知る。(事例・歴史・技術・素材・構造・……

・関連する体験をする:空間体験、いいものを見る:美術

・下地作り:検証プロセスにも生かせる創造の下地

・なぜ若い天才が現れるのか、クリエイターは若いものが多いのか

意識・経験2倍の法則


2.情報整理

・データ(知識のフラグメント)の情報(価値)化を行う

・階層化、関連づけ 演繹法:論理的積み上げ

・強弱(ポイントの発見)など 帰納法:観察・分析



3.フロー状態

・制約・常識にとらわれない脳の状態

・脳の変性状態(altered states)

<自分のこだわりから離れる、自分を客観視する、自分の殻を取り去る

そのための環境作り・もしくは自分がそこに行くこと

・「組織された混沌=オクシモロニックな環境」江崎玲於奈

・逍遙学派(アリストテレスが創設した古代ギリシャの哲学者グループ):歩き慣れた道を歩きながら発想する

歩くこと:歩き慣れた道(環境に対する無意識化が働く)+予測不可能なイベントとの出会い、景色(環境)のゆるやかな変化が意識下に働きかける


4.ジャンプ・跳躍・飛躍(狭義のひらめき)

・常識にとらわれない大胆な仮説設定

・論理的横断、異分野の接合、何らかの欠如(何かをなくすこと)分野横断的発想(Trans-disciplinary Approach)

・「『ああそうか』とひらめいた時には、脳の中のさまざまな部位の神経細胞が、0.1秒ほどの短い時間、いっせいに活動することを示唆する実験がある。」このとき、脳内で横断的接続が行われている

・セレンディピティを捕まえろ!!<問題意識が偶然のひらめきを捕まえる<現状への違和感


5.定着させる

・ひらめいただけでは創造に結びつかない

有用性にフォーカス・収れんしなければならない。

・なにが、これまでと違うのか、違いと意義の検証

養老孟司(解剖学者)「感覚とは何か。世界の違いをとらえるものだ。」<評価・検証プロセス

・収集、蓄積された知識による検証:共感>同調>統合

・対外的な与件に合致するか、法規・予算(制約の検証)

・クライアントに受け入れられるか(対人的検証)

・性能を発揮することができるか(技術的検証)

・物理的に作ることができるのか(工法的検証)


○ポイント

・問題意識が、創造性の駆動力となる。

・違和感ー共感、という相反する感性が創造には欠かせない。




◯仮説

・創造性とは、生命の動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)におけるバグ=ミスである。

・ミス=本来(平衡状態)では異なる属性にあるものをつないでしまう動き

・「○○と天才は紙一重」

・「秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない」(福岡伸一「生物と無生物のあいだ」)


・平衡状態>ミス・バグ>逸脱・離脱 >共感・協調 >統合・回収>平衡状態

>排除 >消滅

・一瞬のひらめきを捕まえるのは、準備された心・精神、すなわち問題意識:違和感である。

・捕まえたひらめきを有用性に結びつけるのは、深い共感感覚である。


・ミス、バグは、ある限られた人(天才・感性のある人)だけの特殊な能力だと思われてきた。しかし

・意図的にミスを起こしたり、ミスの振るまいを整流したり、バグの結果現れるひらめきを捕まえ有用化・定着する、動的環境を用意することはできるのではないか。

・そのような環境は、外因的に用意されるのではなく、意識することで環境を自ら引き寄せることができるのではないか。


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