2009年6月13日土曜日

写真と生物を横断する

本日(2009年6月13日)に、fooで行われた、トークイベント、small talkの記録。

キーワードのみ、アップしておきます。



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大竹昭子+福岡伸一 small talk vol.08

090613sat


keywords


テーマ:

写真:外部の世界を写し取ること、外部の世界があってはじめて成立すること

生物:外部(人間の意識の外部としての生物)の世界を読み解くこと

これらの分野を横断して見ること




◯生物研究の世界

・分けないと記述できない

・分けても、生物の本質は理解できない

ということが、ヒトゲノム計画でDNAを分析して、わかった。


・細胞の見え方:人間・猿・昆虫の間で、細胞だけを拡大してみても区別できない。


・一度分けた上で、再統一していくプロセスを必要とする。

・「分けて見る」ためには、時間を止めなくてはならない。顕微鏡。



◯写真は、時間を止めてフィルムに固定する行為

・そこに前後への想像、撮影する前と後への予感・想像を促す効果がある。

・前後に想像の余地があること、が、写真の危うさでもあり(証拠写真など)、写真の魅力でもある。

・微分:時間を止めたい願望。時間を止めて記述する方法。

・積分:時間を統合したい願望。時間を積算して記述する方法。



◯生と死

・現代では、脳死が人の死として定義されている。:便宜的な線引きとして。

・身体の60兆個の細胞は、呼吸が止まっても、心臓が止まっても、瞳孔が開いても、数時間から数十時間は生き続ける。

・細胞が動的平衡的活動を止める状態までには、長い時間のグラデーションの状態がある。

・「脳死」が人の死であるとするならば、理論的対称性として、「脳始」が人の誕生として定義されるはず。脳波が発生するのは、受精後約27週(6ヶ月~7ヶ月)


◯輪廻転生

・科学的に捉えれば、身体を構成している分子が、燃やされて灰になり、二酸化炭素や二酸化窒素になって、再び植物や動物に取り込まれる、という意味で、輪廻している。

・文学的に捉えると、「人は死ぬと残された人の心の中へ行く」(中野秀雄)



◯蝶の美しさ

・蝶の美しさについて、蝶自身は、人と同じように見ることができない。

・蝶の視覚(色認識・空間認識)は、人間のそれとは異なる。

・人が美しいと認識しているだけ。「蝶の美しさ」は、人の認識の中にある。



◯擬態について

・葉っぱに擬態する昆虫は、葉っぱの汚れや(白点病などの)病気まで擬態する。

・生物学の論理では、「なぜ=Why」には答えられない。「いかにして=How」には答えられる。

・ダーウィニズムでは、無数の突然変異の結果、たまたま、うまく擬態した種だけが淘汰をくぐり抜けて選別されていく。

・しかし、昆虫のすべてが擬態形を採用しているわけではなく、むしろ、擬態を採用していない昆虫の方が圧倒的に多い。ダーウィニズムでは説明できない領域がある。

・ダーウィニズムでは、競争・選択・淘汰が標榜されるが、多くの種では、むしろ、競争を避ける棲み分けを旨としているように思える。その結果、圧倒的に多様な世界が展開されている。

・仮説だが、擬態する昆虫は、葉が葉として生成するための構築原理(植物の原理)を、昆虫がたまたま獲得した、のではないか?



◯写真の見え方

・有名人、無名、のクレジットを外してみると、プロの写真家でも、区別がつかないことが多い。

・作家としての個人の営みを経時的に通視すれば、そこに連続性を見いだすことはできるが。



◯突然変異とひらめきについて

・「キリンの首はなぜ長い」(ラマルク)必要とされるもの、欲することが、進化を促す、という考え方。

・ダーウィニズム:変わること自体に目的はない。役に立つ変化・変異は滅多に起こらない。



◯誤視

・映像、視覚、意味

・人は、ランダムなパターンの中に、意味のある像を、勝手に見いだす傾向がある。

・それは、長い進化の過程で獲得した、危険に対する認識傾向によるものである。

・明快な図像を含めて、人は、ほとんどのモノを「空目=勝手に意味性を見いだす図像」として見ているのかもしれない。


・ランゲルハンス島:膵臓内部でインシュリンを生成する細胞の集まり。この顕微鏡写真と、南洋の島は、同じ視覚的・図像的パターンを持っている。

・スケーラブルに相似形の図像・図柄が「見える」こと自体に意味はないが、メカニズムはあるのかもしれない。

・心霊写真:人間の意識が、意味・像をつくりだしている、好例。


・科学者にとって、セレンディピティ・直感による着想は、99.99%誤りである。

・なぜなら、そのほとんどが「空目=意識によるねつ造」だからである。

・政治文化、アートなどの領域では、どうなのだろうか?

2009年6月11日木曜日

ひらめきの構造

一昨年から慶応大学で「建築論」という講義を担当しています。
建築というジャンルが本来的に持つ「横断性」を主軸に、さまざまな角度から建築の断面・輪郭・辺縁を巡る、旅のような講義です。
全12回の講義のうちのひとつに「ひらめきの構造」というテーマの回があります。

その骨子を下記に。


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○ひらめきの構造

1.知の蓄積

・情報収集:与件・法規的制約・技術的可能性と制約・クライアントの意図など、:外的要因

・広範な視野で、

・すでにあること

・まだなされていないこと を知る。(事例・歴史・技術・素材・構造・……

・関連する体験をする:空間体験、いいものを見る:美術

・下地作り:検証プロセスにも生かせる創造の下地

・なぜ若い天才が現れるのか、クリエイターは若いものが多いのか

意識・経験2倍の法則


2.情報整理

・データ(知識のフラグメント)の情報(価値)化を行う

・階層化、関連づけ 演繹法:論理的積み上げ

・強弱(ポイントの発見)など 帰納法:観察・分析



3.フロー状態

・制約・常識にとらわれない脳の状態

・脳の変性状態(altered states)

<自分のこだわりから離れる、自分を客観視する、自分の殻を取り去る

そのための環境作り・もしくは自分がそこに行くこと

・「組織された混沌=オクシモロニックな環境」江崎玲於奈

・逍遙学派(アリストテレスが創設した古代ギリシャの哲学者グループ):歩き慣れた道を歩きながら発想する

歩くこと:歩き慣れた道(環境に対する無意識化が働く)+予測不可能なイベントとの出会い、景色(環境)のゆるやかな変化が意識下に働きかける


4.ジャンプ・跳躍・飛躍(狭義のひらめき)

・常識にとらわれない大胆な仮説設定

・論理的横断、異分野の接合、何らかの欠如(何かをなくすこと)分野横断的発想(Trans-disciplinary Approach)

・「『ああそうか』とひらめいた時には、脳の中のさまざまな部位の神経細胞が、0.1秒ほどの短い時間、いっせいに活動することを示唆する実験がある。」このとき、脳内で横断的接続が行われている

・セレンディピティを捕まえろ!!<問題意識が偶然のひらめきを捕まえる<現状への違和感


5.定着させる

・ひらめいただけでは創造に結びつかない

有用性にフォーカス・収れんしなければならない。

・なにが、これまでと違うのか、違いと意義の検証

養老孟司(解剖学者)「感覚とは何か。世界の違いをとらえるものだ。」<評価・検証プロセス

・収集、蓄積された知識による検証:共感>同調>統合

・対外的な与件に合致するか、法規・予算(制約の検証)

・クライアントに受け入れられるか(対人的検証)

・性能を発揮することができるか(技術的検証)

・物理的に作ることができるのか(工法的検証)


○ポイント

・問題意識が、創造性の駆動力となる。

・違和感ー共感、という相反する感性が創造には欠かせない。




◯仮説

・創造性とは、生命の動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)におけるバグ=ミスである。

・ミス=本来(平衡状態)では異なる属性にあるものをつないでしまう動き

・「○○と天才は紙一重」

・「秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない」(福岡伸一「生物と無生物のあいだ」)


・平衡状態>ミス・バグ>逸脱・離脱 >共感・協調 >統合・回収>平衡状態

>排除 >消滅

・一瞬のひらめきを捕まえるのは、準備された心・精神、すなわち問題意識:違和感である。

・捕まえたひらめきを有用性に結びつけるのは、深い共感感覚である。


・ミス、バグは、ある限られた人(天才・感性のある人)だけの特殊な能力だと思われてきた。しかし

・意図的にミスを起こしたり、ミスの振るまいを整流したり、バグの結果現れるひらめきを捕まえ有用化・定着する、動的環境を用意することはできるのではないか。

・そのような環境は、外因的に用意されるのではなく、意識することで環境を自ら引き寄せることができるのではないか。